以前、ドイツの老舗サボテン店のhaage から購入した、Disocactus kimnachii HBG41208 が久々に開花した。


HBG41208 のHBG は、Huntington Botanic Gardensの略で、ニューヨークにあるその植物園は、園長を Myron Kimnach が務めていたので、明らかなMyron Kimnach関連コレクションだ。
数日前に、またこれもドイツの老舗なサボテン店、UHLIGから以前購入したビォフルミス名義株が呆れるほど札違いで、UHLIGが販売するDisocactus horichii I.S.I1432 と完全に一致する株が開花したので花粉をとっておいたが、この花粉をHBGに交配した。


Disocactus horichii と Disocactus kimnachii は、syn.だ。ホリッチーという同名の植物があり、混乱するのでkimnachii と改名された。皆様のご想像の通り、kimnachii は献名だね。
比較表
項目 HBG41208 ISI1432
成長速度 遅い 速い
耐暑性 弱い 強い
分枝 少なめ 多い
開花性 低め 高い
花径 比較的小 大きい
印象 原種的 雑種強勢的
ここで仮説
仮説①
同種異クローン
最も保守的。
つまり
HBG41208=野生採集個体
ISI1432=別産地個体
という考え。
仮説②
I.S.I 1432 は自然交雑由来
Disocactus属は自然交雑しやすく、特にグアテマラ~コスタリカ周辺では近縁種が混在する。
そのため horichii として扱われていても実際には、kimnachii × biformis系統 あるいは、kimnachii × eichlamii系統の可能性もある。
仮説③
horichiiとkimnachiiは本来別系統
そして栽培界で統合された。
今回、開花が重なったので、
HBG41208 × ISI1432
をやってみたのだが、(数日後にI.S.Iの方がまた咲くので逆もやる)
もし結実率が異常に高ければ近縁。
逆に低ければ、想像以上に離れている可能性がある。
栽培界では同系統として扱われることもある HBG41208 と ISI1432 だが、実際に育て比べると生育速度・耐暑性・花の印象に明瞭な差が見られる。
少なくとも当方の栽培環境では、同一クローンとは考えにくく、別クローンあるいは自然交雑を含む異なる系統である可能性を感じているんだ。
7/9追記
どちらも結実はしなかったデスヨ。
同時開花ではなく、花粉を冷蔵しての受粉作業で開花自体は数日の差があったが…
感覚だけど、存在が同じじゃなくで、近い、なら結実しとるわな。少なくともどちらもクジャク括りなら結実してる。
8/10追記
改めてUHLIGへ、ISI1432を注文していてそれが届いた。
カット枝で送ってきよった(´・ω・`)
まあ、死ななそうだ。
そこで、チャッピーに聞いてみた。
以下やりとり。
思考時間5分弱、説明も異様に長いけど、人が理解可能な内容にまで上手にまとめてくれているので必読よ。
Disocactus × capelleanus ISI1432
これの、capelleanus を詳しく教えて欲しい。
UMBERくん、これはかなり面白いです。
Disocactus × capelleanus ISI 1432 という現在の扱いは、単なる kimnachii の改名ではなく、1901年にまで遡る古い園芸交雑名を、Horich のコスタリカ株にまで適用したものなんです。
そして、ここはかなり重要です。
現在の Kew / POWO は、
Disocactus × capelleanus (Rother) E.Meier
= Disocactus × kimnachii G.D.Rowley
= Nopalxochia × horichii Kimnach
として扱っています。
しかも ×capelleanus の交配式を、はっきり
D. ackermannii × D. phyllanthoides
としています。さらに分布を「南部メキシコ原産、コスタリカには導入」としています。
まず、capelleanus は何者なのか
歴史を追うとこうなります。
1901年 Rother が Phyllocactus × capelleanus を発表。これは最初から「新しい雑種」として記載されました。Rother は花が P. phyllanthoides に非常に近く、カルミン色を帯び、最大約40枚の花被片、花全体は約11 cm、濃緑色の節を持ち、非常によく咲く植物だとしています。そして驚くべきことに、「この系統には P. phyllanthoides が強く入り、おそらく Ackermannii も入っている」という趣旨まで書いています。
つまり現在の Kew の ackermannii × phyllanthoides という式は、1901年の原記載とかなり綺麗につながります。
1971年 Clarence K. Horich がコスタリカ、San Isidro de Coronado 北東部、Río Durazno 西側、約1400 mで別の植物を採集します。この標本が後の Nopalxochia horichii のタイプです。2016年の Cruz・Arias・Terrazas 論文にもタイプ標本 HNT 0000023 として明記されています。
1984年 Myron Kimnach がそのHorich株を Nopalxochia horichii として新種記載します。ただしKimnach自身、最初から「これ、雑種じゃないか?」と相当疑っています。Horichが同じ場所から再度植物を回収したため野外に生えていたこと自体は確認されたものの、自然種なのか、自然交雑なのか、逸出した園芸雑種なのか決着できず、ひとまず種として記載しました。
1987年 Disocactus に移す際、すでに別物の Disocactus horichii Kimnach が1979年に存在していたため horichii を使えません。そこで Rowley が Disocactus kimnachii という置換名を作りました。
2016年論文では雑種として D. ×kimnachii と表記されています。
現在 Kew はさらに一段進めて、Horich株の D. ×kimnachii / Nopalxochia ×horichii を、1901年のもっと古い ×capelleanus と同じ交雑分類群だと判断しています。したがって先取権のある capelleanus が表に出てきた、という構造です。
ここが最大のポイントです。
×capelleanus と ×kimnachii は「同じクローン」と証明されたわけではありません。
Kewを見ると、Phyllocactus × capelleanus、Nopalxochia × capelleana、Heliocereus × capelleanus はhomotypic synonym、つまり同じタイプに基づく名前です。
ところが、
Disocactus × kimnachii
Nopalxochia × horichii
は heterotypic synonym とされています。つまり別々のタイプ標本を持つ植物を、分類学的判断によって同一の交雑分類群にまとめたという意味です。
これ、ISI1432を考えるうえですごく大事です。
2016年のDNA解析は何を示しているか
Cruzらの2016年論文では、D. ×kimnachii は
D. ackermannii + D. ×kimnachii + D. phyllanthoides
という非常に強く支持されたクレードに入っています。論文自身も、結果から D. phyllanthoides が片親である可能性を示唆しています。
これは現在のKewの
D. ackermannii × D. phyllanthoides
という解釈と、恐ろしく綺麗に噛み合います。
ただし注意も必要です。
2016年研究で使われたのは6つの葉緑体DNAマーカーです。つまり、この解析だけから「父親はackermannii、母親はphyllanthoides」といった両親の完全確定まではできません。
論文自体もそこまでは言わず、phyllanthoides が片親かもしれないという表現に留めています。
なので、
1901年 Rother 「phyllanthoides が強く、Ackermannii も入っていそう」
↓
2016年 DNA系統 「×kimnachii は ackermannii / phyllanthoides のすぐ近く。phyllanthoides が片親かもしれない」
↓
現在 Kew 「×capelleanus = ackermannii × phyllanthoides。そして ×kimnachii をその異名にする」
という流れです。
これはかなり説得力のある一本の線になっています。🌵🧬
でも、コスタリカ産 Horich 株はどう説明する?
ここがまだ気持ち悪くて、同時に面白いところ。
Kimnachが1984年に記載した植物は、Horichがコスタリカの樹上で発見したものです。しかも数年後に同じ場所から再発見しています。だからKimnachは「単なるラベル混入ではない」ことまでは確認しました。
ところが現在Kewは、
×capelleanus の原産地=南部メキシコ
Costa Rica=introduced
と明記しています。
つまり現在のKewの解釈をそのまま読むなら、
「Horichがコスタリカで見つけた Nopalxochia horichii は、コスタリカ固有の新種ではなく、古くから知られる D. ackermannii × D. phyllanthoides 型の交雑植物が何らかの経緯でコスタリカに入ったもの」
ということになります。
ただ、これは「誰がいつコスタリカへ持ち込んだか」が証明されているという意味ではありません。Kimnach自身は当時、「発見以前には現地にクジャクサボテン交配種はほぼ持ち込まれていなかった」というHorichの証言も理由に、園芸逸出説にも疑問を持っていました。
だから僕は、Kewの現在の分類名は採用してよいけれど、ISI1432の生物学的な出自まで完全解決したとは考えない方がいいと思います。
そしてもう一つ。
ISI1432 は絶対にラベルから消さない方がいい。
Disocactus × capelleanus は現在かなり広い「交雑分類群」の名前になっています。一方、ISI1432 はHorich / Huntington 周辺の歴史を背負った具体的な栽培系統を追跡するための情報です。
僕なら札は、
Disocactus × capelleanus (Rother) E.Meier
ISI 1432
syn. D. ×kimnachii, Nopalxochia ×horichii
とします。
むしろ今回掘ってみて、「capelleanusなんて知らん名前に統合された」のではなく、1901年の古い交配種が100年以上経ってHorich株を飲み込んだ、という構図だと分かりました。
これは森林サボテンの分類史としてかなり面白い事件です。
それと、僕は次にぜひやりたい。1901年の ×capelleanus と ISI1432 の花・茎の記載を一項目ずつ並べて、本当に同一視してよいのか形態面から検証できます。
ここ、かなり深い穴が開いています。🌿🔍


